コンセプト
男性の「育児参画」ってなんだろう?
男性の育児参画を促進しようというのが、この育児カードゲーム制作の出発点の1つです。でも、改めてその課題に向き合ってみると、男性の「育児参画」って何がゴールなんだろう?
開発メンバーで話し合って見えてきたのは、男性の家事・育児の分担量ではなく、もっとその手前にあるべきこと。家庭ごとの事情にあった、最適な形を見つけだすことこそ大切なのではないか、という思いでした。
大切なのは「ふたりの納得」
大切なのは、その家庭のパートナー同士が、互いの得意・苦手を認め合い、補い合い、前向きに納得できる役割分担を見つけ出すこと。
そこで今回は、ゲーム体験を通じて、家事・育児の意義や知識を学ぼうというのではなく、「2人が話し合って分担を決める」というプロセスそのものをゲームの中心にすえて、「カジークジー」を開発しました。
「ゲーム」にしちゃえば笑いあえる
ゲームと現実は違います。だから、ゲームの中で決めていった分担は、現実にそぐわないかもしれません。でも、ゲームの中とはいえ、未知のトラブルを前に「互いの能力、消耗をふまえて話し合った」ことは現実の経験になります。
子育てはずっと予測不能です。それまで会ったこともない1人の人間が、ある日とつぜん、家族に加わるのですから。現実の家事・育児・仕事にふりまわされ、疲れ切ったときには、2人で顔を合わせて、つぶやいてみてください。
「どうする? またトラブルカード発生だね」
成り立ちの記録
歴史の記録者:松浦雅史(カジークジー・ゲームデザイナー)
はじまり
幻の大構想
きっかけは、制作メンバーが参加した勉強会。カードゲームを通じて、SDGsについて理解を深める会だったのですが、純粋にそのゲームがとても面白く、自分たちもオリジナルのカードゲームを作りたいな、と思っていました。
ちょうどその頃、東京青年会議所のメンバーでもあった制作者は、同会で行う予定だった「男性の家事・育児参加に関する事業」で、有識者の講演だけではなく、カードゲームのプレイを通じて対話が生まれるような内容にしようと決めたのです。
コンセプトの発見
天空の花婿
「家事・育児に関する話題は、多くの場合、男性が関心を持たない。男性に、いかに興味を持ってもらえるのかがポイント」
そう教えてくれたのは、昭島市で男性の家事・育児をサポートしている主夫ラボの高木駿さん。男性にも来場してもらおうと苦心した結果、某有名なRPGゲームをモチーフにして、チラシ作りをしたそう。
そうか!ゲームの要素を入れれば、興味を持ってもらえるのか! まさに、一条の光が差した瞬間でした。
命名会議
空と海と大地と闇に消えしボツタイトル
もうこの企画は半ば終わったようなものだ。そう油断した私たちは、張り切ってゲームタイトルを考えました。それが、こちら……『ロマンシング カ・ジ(ロマカジ)』『ペアレンツクエスト(ペアクエ)』『Battle Home~生活はいつだってパーティーゲーム~』『子育てしてみたら冒険よりよっぽどハードモードだった件』 等々……
タイトルを考えるのって、難しいんですね……結局、どうしても往年の名作ゲームっぽさを残したくて、『ファンタスティック・ファミリー(FF/ファンファミ)』というタイトルが決まりました。
動き出した制作
導かれしオジサンたち
ところで、いざゲームを作ってみると、「HP(ヒットポイント)が適切なのか」「ゲームのプレイ時間が長すぎる」「ステータスが極端な場合のゲーム性崩壊」など、生まれて初めてカードゲームを作るメンバーにとって、なかなか難しい問題にぶつかりました。
そこで協力を仰いだのが、「いたばし地域ボードゲーム会」のメンバー。こうして、導かれし仲間たちが揃い、ゲーム制作の本格的な詰めが始まりました。
ちょうどこの頃、カードゲームのキービジュアル案を作成していましたが、様々な大人の事情から(察してね!)『ファンタスティック・ファミリー』ではマズイ、というお話となり、「家事・育児」をもじって、『カジ―クジー』という現在の名前になったのでした。
ストーリーに秘めた想い
目覚めし幾つかのこだわり
『魔王を倒した勇者と賢者が、今度は魔王に託された子どもを育て上げる』実は、このストーリーには、様々な想いが込められています。
まず、子育てをしている夫婦だけを対象にするのではなく、シングルマザー(ファザー)や同性カップル、さらには結婚前の学生たちにもプレイして欲しいと考えました。そこでプレイヤーを、性別の概念が関係ない「勇者と賢者」のペアにすること。更に、自分たちが産んだ子どもという縛りも無くして、「勇者たちが倒した魔王の子どもを育てる」というストーリーが生まれたのです。
テストプレイ~印刷
こだわりの紙々
やっとこさ形になり始めたゲームも、最終調整の段階に。ここでは、多くのテストプレイヤーの皆様に、「勇者・賢者の入れ替え」など、ゲーム性を格段に面白くする貴重なヒントを貰いました。
そして、遂に最終版の入稿。カードの印刷は板橋区のカードゲーム専門の印刷会社に依頼をかけました。印刷は、実は板橋区の代表的な産業なのです。カード以外の、HP管理用のチップなどの小物類は、レーザープリンタで全て手作り。
こうして、およそ半年以上かけて作り上げられたカジ―クジー。出来上がったものを見て、制作メンバーは感極まり、思わずむせび泣いたとか、泣かなかったとか。願わくば、多くの勇者・賢者たちにプレイして頂けることを。
初期のイラスト提案
仮タイトルが「ファンタスティック・ファミリー」だったころのイメージと、方向転換直後にミニキャラの造形を模索するイラスト。「いたばしの地域ボードゲーム会」によるもの。
illustlation & graphic design「いたばしの地域ボードゲーム会」代表・松本浄